植物の大気浄化作用2

東部中学校自然課
田畑美咲 馬場智美 小林美智代 宮崎聡 柳沢光洋 高橋光 渡辺祐貴 花岡健一 小林隆人  日向里詩石川千秋 大熊綾   所あさみ 深沢信太郎  柳沢陽子 奥村めぐみ

1.動機 
  2年前に先輩達が「植物の大気浄化作用」という課題の研究を行いました。この研究では、数種類の樹木で、晴れの日の蒸散量について調べました。この研究でわかったことは、自然のケヤキ林のケヤキ、クリなどは、空気をきれいにする能力が高いと思ったがそうとは限らないと言うことです。しかし、ケヤキ林は、安定した成長が代々続き、長い期間でみれば、酸素の供給や大気の浄化に貢献しているものと思われます。そこで今年度は、一歩ふみこんで常緑樹について調べたり、季節による蒸散量のちがい、車の排気ガスなどの影響で汚れた葉と、汚れていない葉での蒸散量のちがい、蒸散量と気孔の関係などを調べることにしました。

2.研究問題 
@季節による蒸散量のちがい
Aきれいな葉と、排気ガスやスス・ 泥におおわれた葉との蒸散量のちがい。           
B蒸散量と気孔の数の関係
C草本の蒸散量         
D天候による蒸散量のちがい

3.研究問題に対する予想 
@冬より夏のほうが気温が高く比較的湿度も低いので、蒸散量は多いと思われる。
A汚れた葉は、葉の表面に泥やほこりが付着しているため、気孔がふさがってしまい蒸散量は、きれい な葉に比べて少ないと思われる。
B植物の蒸散量は、それぞれ種類によって異なると思われる。又、マサキは多く、コスモスは、葉の細かさからみても一番少ないと思われる。ツユクサについては、気孔の数が少ないので、蒸散量も少ないのではないかと予想した。
Cツユクサ、コスモス、サボンソウなどの草のほうがマサキ、シラカンバ、ヌルデ、ムラサキシキブ、ツルウメモドキなどの樹木よりもある期間での成長が早いので蒸散量が多いのではないかと予想した。茎も柔らかいので、茎からも水蒸気がでていくのではないかと考えたのもその理由のひとつである。
D曇りや雨などの日よりも晴れている日のほうが気温が高めで、湿度は低いと思われるので蒸散量は多いと思われる。

4.方法           
@蒸散量を調べる装置を作る 
※植物が、蒸散により水蒸気を空気中に出した分だけ根から水が吸われる。吸われた水の分だけ、メスピペットの目もりがさがり、わかるしくみになっている。
写真1 蒸散量の測定装置 写真2 同じ条件での比較実験
A葉の表面積を求める
ア、蒸散量を調べた葉をコピーする
イ、コピーした用紙の面積と重さをはかる。面積A、重さB
ウ、コピーした葉を切りとり重さをはかる。コピーの葉の重さC
  葉の表面積をXとすると
  A:B=X:Cで求められる
写真3  コビーした葉を切り取り、重さを量る
5.前回の研究結果
6.マサキ(アオキ科)について 
 蒸散量測定の中心としてマサキを利用しました。これは、マサキが 校内にたくさんあり、容易に実験 できること、また、マサキは前回 あまり調べていない常緑樹である からです。マサキは、生垣として利用されますが、家のまわりの空気を浄化する力を昔の人が知っていたのではないかとも考え、その浄化能力を継続的に調べることにしました。マサキは、車の通る道路ぞいにも多く、排気ガスなどで汚れたものとそうでないものの蒸散量を比較するのにも都合の良い植物です。
7.結果
@季節による蒸散量のちがい

図1 季節による蒸散量の違い
図2 気温と蒸散量
 季節で言うと、図1から分かるように4月中旬から5月中旬まで、蒸散が盛んである。温度で言うと図2のから分かるように20℃前後で、最もよく蒸散している。また、気温が高くなるにつれてよく蒸散している。このことから、冬や春先よりよりも夏の方が蒸散量 が多いと言える。 
Aきれいな葉と、排気ガスやスス・ 泥におおわれた葉との蒸散量のちがい
図3 きれいなマサキの葉の蒸散量  
図4 汚れた葉の蒸散量
図5  きれいな葉と汚れた葉の蒸散量 の違い(平均値)
きれいな葉と汚れた葉では、き れいな葉の方が、汚れた葉より、 平均して2,5倍の蒸散量があっ た。
B蒸散量と気孔の数の関係
植物名 気孔の数 平均 平均の蒸散量(ml/cu)
コスモス 12〜16 14 0.0351
ツユクサ 4〜5 0.0356
マサキ 22〜24 23 0.0106
図6  気孔の数と蒸散量の関係
写真4マサキの気孔
写真5コスモスの気孔
写真6ツユクサの気孔 (写真4〜6 撮影:東部中学校原田昇先生)
 マサキについては、面積あたりの気孔の数が多いのに蒸散量は、それほど多くない。
 ツユクサは、面積あたりの気孔の数がマサキの6分の1,コスモスの3分の1と、たいへん少ないのに、蒸散量は多かった。コスモスについては、気孔の数はツユクサの3倍あるが、蒸散量はコスモスとほぼ同じである。
C草本の蒸散量
 マサキは、前回の研究結果より、木本の中では、蒸散量の多い樹木である。図6のように、マサキの蒸散量は、草本の植物であるコスモスやツユクサより、単位面積あたりの蒸散量が少ない。3分の1以下である。
D天候による蒸散量のちがい
  晴れの日と曇りの日では、蒸散量にそんなに違いはなかったが、 雨または雪の日は、晴れの日と比べて、蒸散量がかなり低く、雪の日については、蒸散していなかった。
図7 天気と蒸散量の関係
8.考察 
@についての考察:
 「季節と蒸散量の関係」からわかるように4月中旬〜5月上旬にかけて若葉や新芽が出てくる時期は、一年の中で一番成長するので、蒸散が活発化している。
 「季節と蒸散量の関係」「気温と蒸散量の関係」の2つのグラフを照らし合わせてみても5月上旬で、20℃になった日には、一番蒸散量が多い事が分かる。このことからも、蒸散しやすい気温が若葉のつくられる時期に重なると思われる。
 一方、前回の研究では、マサキのような常緑樹は1年中光合成を行えると考え、一年中蒸散が盛んなのではないかと予想した。しかし、寒さの厳しい長野県では、冬から、初春にかけては、ほとんど蒸散していないことが分かった。やはり、気温が低いと、植物も、活動が鈍くなるためだと思われる。 気温の低い長野県の東部町では、晩秋から、冬、早春にかけては、ほとんど冬眠状態ではないかと思う。したがって、常緑樹も、葉を落とす落葉樹と同様、冬の間は蒸散が行われないと考えてよいかもしれない。
 
Aについての考察:
 「きれいな葉と汚れた葉の平均蒸 散量の違い(マサキ)」のグラフから分かるように、予想どうり汚れた葉よりもきれいな葉の方が2倍以上蒸散している。このことから、排気ガスやスス、泥などによって、完全とまではいかないが、半分ほどの気孔がふさがれてしまったと思われる。できれば顕微鏡で、気孔がふさがれている様子を確認したかったが、学校の顕微鏡の倍率では確認できなかった。
 
Bについての考察:
 マサキでは、気孔の数はたいへん多いが、それほど蒸散していない。それに対して、ツユクサは気孔の数が非常に少ないが、予想に反してかなりの蒸散量がある。 
 コスモスは、葉は細いが、面積あたりの気孔の数はけっこう多く、単位面積あたりの蒸散量は、ツユクサとほぼ同じである。
 ツユクサは、理科の教科書の気孔の観察に使われる植物だけあり、ひとつの気孔が大きくて、開き方も大きい。したがって、ひとつの気孔から、水蒸気がでていく量がマサキの場合は、気孔は多いが、小さい。また、確かめることはできなかったが、茎や、気孔以外の葉の部分の樹皮や表皮が厚く、それらからの蒸散がほとんどないのではないかと思われる。
 コスモスは、細い葉の中の、細い気孔にしては、蒸散量が多く、予想外の結果となった。
 いずれにしても、植物の種類により単位面積あたりの気孔の数・蒸散量は異なることがわかった。マサキは、単位面積あたりの蒸散量は小さいが、葉の数(面積)が、コスモスやツユクサとは比べものにならないくらい大きいので、1個体ずつで見た場合は、マサキの蒸散量が一番大きいものと思われる。
 
Cについての考察:
 図6のように、樹木であるマサキの蒸散量は、草本であるツユクサやコスモスに比べ、たいへん少ない。これは、樹木に比べて、草本の方が、短期間に成長しなければならないので、光合成が盛んなためではないかと考察する。とくに、実験を行った季節は、ツユクサが一番生長する時期なので、ツユクサの蒸散量が、特に多かったのではないかと考える。
 
Dについての考察:
 晴れの日と、曇りの日が、あまり変わらない(くもりの日の方が蒸散量がやや上回った)のは、ほとんど蒸散が行われない冬から初春のデータが入っているからである。いずれにしても、雨や雪が落ちてこない程度のくもりは、照度がかなりあり、光合成が行われ、それにともなって蒸散も行われるためであると思われる。やはり、蒸散量は前回での研究で明らかになったように、湿度にかなり関係している。また、@で分かったように、気温にも左右される。晴れの日は、一般的に湿度が低く、気温も上がるので蒸散量も多くなる。                       
9.まとめ             
 以上、このあたりで生け垣に使われるマサキには、いろいろな良さがあり、そのひとつに蒸散量に比例する大気浄化能力の高さがあるのではないかと予想して、マサキを中心に蒸散量測定や、実験を行った。マサキは、他の植物との比較では、気孔の数が多い割に、蒸散量は多くないが、葉の数を考えると圧倒的に蒸散量は多くなる 。また、木本であるため何年も長 持ちすること、丈夫であることなど考え合わせると、予想通り、民家付近の大気浄化にかなり役立っているものと思われる。      
 常緑樹であるマサキは、1年中、蒸散を続け、大気を浄化していると予想したが、冬から初春までは、休眠状態であり、ある温度に達するまでは、蒸散を行わないことも分かった。この点は、冬場に葉を 落としてしまう広葉樹と同じであるが、見た目には葉が緑で、殺風景な冬でも人々の心を緑でなごませてくれる良さがあるのだろうと 思う。
 排気ガスや車のほこりのかかる、道路脇のマサキの葉と、庭の中の方にあるきれいなマサキの葉で蒸散量を比較したところ、きれいな葉の方が2倍以上の蒸散量があった。やはり、植物に対する排気ガスなどの影響は大きいものと思われる。ほこりや排ガスにあたっても枯れないのも、マサキの良さの ひとつではないかと思われる。   
 冬から、真夏までマサキの蒸散量を継続観測したが、マサキの蒸散量の一番多い時期は、若葉がでたり、若枝が伸びる時期に一致していた。このことから、蒸散量ひとつとっても、マサキの1年の生活史に、密接に関係していること が分かった。           
 マサキは、昔からこの地域の生け垣に使われてきたが、家のまわりの大気を浄化する役割も充分果たしていることが分かった。

10.反省            
@今年度の研究テーマを決めるのが少し遅くなってしまい、マサキの蒸散量を1年を通して調べることができなかった。1年を通せば、マサキの1年の生活と蒸散量の関係がより詳しく分かったと思う。
A途中で葉がしおれてしまったり、枝に透き間が空いていて、水漏れがあったりで、使えないデータが多かった。科学部員全員が植物を装置にセットする練習をしっかりやっておけばよかった。    
Bデータが少ないため、天気と蒸散量の関係では、同じ季節で比べることができなかった。まとめるときに困らぬように、毎日の観測を きちんとやっておけばよかった。

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